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山猿

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LETAL COMBINACION

「WBC世界Sバンタム級タイトルマッチ」(2009年5月23日@モンテレー・アリーナ)
王者:西岡利晃(帝拳)○TKO3回1分20秒●同級2位:ジョニー・ゴンサレス(メキシコ)
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これは歴史的快挙だ。
西岡利晃が遥々メキシコに乗り込み、当地のスター選手、元WBO世界バンタム級王者ジョニー・ゴンサレスに失神KO勝ち。指名試合での海外防衛を成し遂げた。
初回にダウンを奪われながらも、3回に左ストレート一撃での逆転TKO勝ち。入場時、西岡に容赦のないブーイングを投げかけた1万2000の大観衆が一瞬にして静まりかえるコールド・ノックアウト。そして最終的には万雷の拍手に変わる。世界で戦える日本人ボクサーがいることを堂々と証明した近年の日本ボクシング界における最も価値ある勝利だ。

フィニッシュは右ジャブを軽く見せながら右に大きく踏み込み、対角上に一直線に持っていく伸びのある左ストレート。顎を撃ち抜かれたゴンサレスの体が一瞬浮き、硬直して後方に吹っ飛んだ。昨年4月19日の後楽園ホールでヘスス・ガルシア(メキシコ)を同じ3回に倒したのと同パターンで、西岡特有の左ストレートだ。失神していたゴンサレスはケニー・ベイレス主審のカウントに本能的に反応し、カウント7あたりでふらふらと立ち上がってきたが、もちろんストップ。というかノーカウントで止めて当然というダウンシーンだった。
研ぎすまされた技巧が計算し尽くされた中で放たれた。西岡は初回から左を浅く打ち続け、長い間合を持つゴンサレスに届かないパンチだと錯覚させた。時にはボディに伸ばす。フィニッシュの一撃も一瞬、ボディに打つのかというモーションを入れており、反応の遅れたゴンサレスはパンチの伸びにも対応できず失神した。元々右に動いて左ストレートを打つことは得意としていたが、02年に左足アキレス腱を断裂して軽やかなフットワークを失って以降、無駄のないポジション取りに神経を使う戦い方をするようになり、このパンチの重要性は増している。左足の蹴りから体重の乗った拳が一直線に顔面を射抜くパンチも上質そのもの。すばらしいKO劇だった。戦いを終わらせるプロセスは、マニー・パッキャオがリッキー・ハットンを倒したそれと重なるというのは言い過ぎか。

KOシーンばかりに目がいくが、試合内容でもジョニゴンを上回っていた。初回終盤に警戒する左ロングフックを外したところに右ストレートを打ち込まれて尻餅をつくダウンを喫したが、危なかったのはこの場面だけ。多彩なコンビネーションで攻めてくるゴンサレスのパンチを見切ったかのようにボディワークで外しながらも右のガードは常に高く保たれている。ディフェンス力の高さは際立っていた。現地の放送では2回はゴンサレスにポイントを与えていたが、明らかに西岡がペースを握ったラウンドに思えた。初回の失点を挽回して判定でも勝てるという予兆はあった。

しかし誰がこのような結末を予想した。
おれは西岡のファンなので勝ってほしい、勝ってくれると思いながらも、悲観的な結末を捨てきれずにいた。これは国内開催だったとしても同じだっただろう。そもそも、その気になれば入札で負けるわけのない帝拳陣営が興行権を獲得しなかったのは、日本で開催したところで勝てるという計算が働かなかったからに決まっている。
4度の挑戦失敗、決定戦での王座獲得という流れから世界王者であることに疑問を抱く声をこの一試合で一蹴するとともに、一夜にしてラスベガスのリングに最も近い日本人ボクサーとなった。

衝撃冷めやらぬ試合後のリング上での勝利者インタビュー。
メキシコのレポーターに「まだマルケスがいるが、またメキシコで防衛戦がしたいか?」と問われると、きっぱり返した。

「おれはチャンピオンだから誰とでも戦う」

実に説得力のある言葉だ。
自国のスター選手が倒されて余程悔しかったのか、レポーターはこれを観衆・視聴者に伝えなかったが、痛快だった。
おれもそうだが、日本王者になる前からの西岡のファンというのは、四度の世界挑戦に失敗し、アキレス腱断裂という致命的な負傷を乗り越えて世界の頂点に立った諦めない姿や不屈の闘志に惹かれたわけではない。
リングの中での、天才的な左ストレートのキレと、自信に満ちあふれたその佇まいに希望を抱いたのだ。いつしか忘れていた希望が10年の時を経てメキシコ、モンテレーの地で再び輝き出すとは。西岡利晃は確かに伝説を生み出した。
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by the_leaping_hare | 2009-05-31 08:34 | Box
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