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山猿

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長谷川穂積が負けた夜

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「WBC世界バンタム級タイトルマッチ」(2010年4月30日@日本武道館)
王者:長谷川穂積(真正)●TKO4回2分59秒○WBO世界同級王者:フェルナンド・モンティエル(メキシコ)

負けても不思議ではないとは思っていたが、長谷川断然有利だと考えていた。
根拠は二点。いろいろなところで言われていたが、フライ級上がりのモンティエルとは体格差があり、さらにモンティエルはサウスポーへの対応がまずいというのがその理由だ。

しかし、試合が始まってすぐに間違いだったと気付く。
まず体格差がない。聞けば当日のウェイトはモンティエルが長谷川を上回り約61キロだったという。モンティエルは得意とする左ボディショットの角度は合わないようだったが、攻撃でも防御でもサウスポーへの違和感は特に感じない。

目の前の現実が信じられなかった。
4回終了間際、WBO王者の打ち上げ気味の左フックをまともに被弾した長谷川の目が一瞬泳ぎ、力なくロープ際まで後退する。
もう一度、時間を取り戻すことができないのかと願うほどのショックと喪失感。
それでも同時に、すごい試合を観たという清々しさもどこかにある。

ヒリヒリするような間合の詰め合い、瞬きさえも許さないカウンター合戦、多種多彩なフェイントの掛け合い、ギリギリで楽しむかのようなディフェンステクニック、衝撃かつ一瞬のフィニッシュ。これぞボクシング。まさに最高のボクシングを観た。

リングサイドで観戦。会場に行って本当に良かった。
長谷川のサイドステップ、モンティエルのスウェーバック。両者のディフェンス技術が高度過ぎて、お互い威力もキレも十分なパンチを放ちながらも、クリーンヒットのほとんどない攻防。右ジャブを出しながらロープに追い込み、パンチをまとめる長谷川にポイントが流れる展開だが、主導権を掴んでいるというほどではない。
現にモンティエルはラウンドが進むに連れて左ガードを下げていった。もちろん苦し紛れの“誘い”などではない。後退、浅い被弾、ポイントロスは承知の上で、長谷川のパンチの“見切り”に入っていた。

来日後、非公開で行われたモンティエルのトレーニングを見た関係者から、この3階級王者が脇を完全に絞った左ショートフックを繰り返し練習していたと聞いた。長谷川が最も得意とする右フックをインサイドから封じる強気の対抗策だ。
結果、フィニッシュの起点となる4回2分52秒、右を出すと同時に踏み込み、スイッチ気味のスタンスから強く打ち込むパンチとして機能した。
長谷川はここまでの展開で手応えを感じていたのか、それとも本能か。あれほど慎重だった右ガードをリターンとして打っていった。そこに打ち上げ気味から強引にナックルを水平に返したモンティエルの左ロングフックがカウンターとして炸裂する。この一撃で勝負が決した。

試合翌日のニュース番組で前王者はロープ際で連打に晒されたシーンについて、左グローブがロープに絡まって外れなかったと話しているが、個人的にはロープを掴んで必死で倒れることを拒んでいたように思う。残り時間がなかったのだからダウンして回復に努めれば良かったという声もある。ただ、ここで絶対に倒れない精神力こそが、ここまで勝利を重ねてきた理由であり、V10王者たる所以だと感じた。失礼を承知で言うが、見事な散り際だった。
ラウンド終了まで残り1秒だっただけにストップが早いのではとの声もあるが、これは妥当。むしろ遅かったくらい。

試合後、長谷川は勝者を称え、リング上で観客に手を合わせて謝り、コーナー下でリングに向かって一礼して誰の手も借りずにしっかりした足取りで控室に消えた。普通ならノーコメントで当然の状況だが、勝った時と同じように、すぐに会見を行った。立派だと思う。

当日のニュースでは会見の映像も流れていた。敗戦の心境を問われ「もちろん悔しさはあります。ただ…」と絶句。目には涙が浮かんでいた。長谷川が泣くところを初めて見た。おれも泣きそうになった。

顎の骨折こそ計算外だが、再起表明も、モンティエルへの雪辱の思いを示したことも想像した通り。
必ず、長谷川は帰ってくる。最強の王者は帰ってくる。
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by the_leaping_hare | 2010-05-05 15:44 | Box
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