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山猿

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奇跡の再会 薬師寺保栄×辰吉丈一郎

15日に発売されたボクシングマガジン3月号の表紙を書店で見て,思わず驚きの声をあげたのはおれだけではないはずだ。
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1994年12月4日,名古屋市総合体育館レインボーホール(現・日本ガイシホール)。日本ボクシング史上初めて行われた世界王者同士の統一戦。壮絶な興行権争い,総額342万ドルのファイトマネー,試合前の両陣営の度を通り越した舌戦。空前絶後の盛り上がりをみせた試合は,初回からノンストップの打ち合いという内容も期待に違わぬもので,正規王者・薬師寺保栄(松田)が2−0の判定で暫定王者・辰吉丈一郎(大阪帝拳)を破った。これが「伝説の一戦」へと昇華したWBC世界バンタム級王座統一戦だ。

お互いのプライドを正面からぶつけ合い,試合後に固く抱き合った両雄は,「伝説」を置き土産に,以後別々の道を歩み,一度も公の場で交わることはなかった。昨年末に日刊スポーツ大阪の「伝説」という過去の名選手や名勝負に焦点を当てたコーナーでこの試合が取り上げられたが,10回に渡る連載は,薬師寺本人と薬師寺サイドの松田ジム・松田鉱二会長が当時を振り返ることで大半が構成されており,辰吉といえば最終回に出てきて「オレは過去のことは振り返らんよ。負けたことをあれこれ考えても,しゃあないやろ」などのコメントがあるだけ。この試合について辰吉が語ることは二度とないと思っていた。だからこそ驚きを禁じ得ない。疾うの昔に諦めていた“競演”が何の前触れもなく,唐突に実現しているのだから。

表紙からぶち抜き10ページ展開。スーツ姿の薬師寺とジャージの辰吉。1ページ目で両者がとっているポーズは試合ポスターを再現したものだ。
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対談は今年1月に守口ロイヤルパインズホテルで行われた模様。05年4月に車のイベント会場で偶然会い,立ち話をしたことはあったという両者だが,じっくりと話し合うのはもちろん初めて。薬師寺が「毎年,12月4日になると,あの日のことを思い出しますよ」と今の自分があるのはあの試合のおかげということを強調するのに対し,「よく何年何月とか覚えとるなあ〜」「ボクも,(覚えるのが)苦手やないんよ。ただ興味がないだけ」と過去に関して無関心を装ういつもの辰吉。「なぜ今このタイミングで?」という部分ははっきりしないが,ボクマガがすばらしく意味のある対談を組んだ。読むべきところがないなどと批判ばかりしてきたことを陳謝するとともに,敬意を表して「保存版」も含めて2冊購入した。全ボクシングファン,必読。

あれから13年の時が流れた。
この世界戦がどこかのパフォーマーの試合のように一時の話題だけで終わるのではなく,本物の名勝負と語り継がれるのは,戦前,あれほど口汚く罵り合いながらも,勝負がついた後に両者の抱擁があったから。敗者が「いろいろ言ってごめん。ほんま強かったワ」と耳元で囁いたことで,勝者はすべてを許せたという。そう,ボクシングには奇跡的なほど美しい瞬間がある。

試合の翌年,27歳で引退した薬師寺は昨年,名古屋市中区新栄に最新鋭の設備を誇るジムを開設した。ボクサーの“定年”となる37歳を超え,もうやりたくてもボクシングをできない38歳になった時にジムを開こうと決めていたらしい。
昨年5月15日に37歳となった辰吉は未だ王座返り咲きの執念を捨てていない。元世界王者には最後の試合から5年以内であればライセンス交付の申請が認められる特権が存在するため形式上,現役続行は可能だが,そのリミットも今年9月25日に迫っている。
そして両者がそのすべてを賭けてひとつにしたベルトは,現在,長谷川穂積の元にある。
by the_leaping_hare | 2008-02-21 14:35 | Box
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