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山猿

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潜水服は蝶の夢を見る

e0042386_22545729.jpg『潜水服は蝶の夢を見る』(2007 フランス/米国)監督:ジュリアン・シュナーベル

ジャン・ドミニク・ボビー,パリ在住の42歳。職業は雑誌『ELLE』の編集長。金も女も社会的地位もあるが(子供はいても)家庭は持たず,人生を謳歌していたまさにその時,前触れもなく脳卒中を発症。一命は取り留めたものの,「ロックト・イン・シンドローム」となってしまう。感覚意識と聴覚は残ったが,全身が麻痺してしまった状態だ。人生のピークから絶望のドン底に落ちた男は,唯一自由が効いた左眼周辺の筋肉を使い,瞬きを伝達手段に,自伝を書き上げる。この実話に基づく一種風変わりな映画の監督はジュリアン・シュナーベル。前作で,キューバ出身の作家レイナルド・アレナスが死の直前に記した伝記をもとに『夜になるまえに』を撮った米国人だ。

そんじょそこらにあるようなドラマでもなければ,安っぽい感動作でもない。絶望が希望につながる過程がものすごく丁寧に描かれています。意識を取り戻した瞬間から映画は始まるが,自伝を完成させるという奇跡の瞬間,そして死へと進む現在進行形の時間軸とは別に,主人公の記憶を過去へと遡る時間軸も存在する。観客は,主人公の左眼,頭の中に同化し,彼の記憶と想像を駆けめぐる。想像力を欠如した人間が観ても感動することは不可能。早くも本年度ベスト作品か。

主人公の左眼から見える世界,そして想像世界を視覚化したヤヌス・カミンスキーの映像がすばらしい。この撮影監督もそうだが,主人公を演じたマチュー・アルマリック,主人公の意思伝達手段を考案する美人女医役のマリ・ジョゼ・クローズも『ミュンヘン』に出演していたスピルバーグ組。撮影も主に米国で行われている。

ジュリアン・シュナーベルは,『バスキア』で“黒人”の画家,『夜になるまえに』では“ゲイで亡命者”の作家と実在した“異端者”をテーマに映画を撮ってきた。今回はある意味,異端の極致ともいえる「障害者」を真摯に見つめる。押しつけがましい感動はそこにない。ちょいわるオヤジは全身麻痺を負ってもエロ親父のままだという遊び心も忘れず,究極の人生讃歌がそこにある。
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by the_leaping_hare | 2008-03-12 22:39 | Movie
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