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山猿

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その時,世界が息をのむ。

吉田沙保里選手の圧倒的な「金」も,伊調千春選手の完全燃焼の「銀」も,中村礼子選手の執念の「銅」もすばらしかったですが,16日,何に一番感動したかというと文句なしに老山自転車館でのケイリン,永井清史の“ミラクル”です。おれの中ではフェンシングの太田雄貴選手を超えて今大会ナンバー1の予想外のメダリストです。

これはもう快挙ですよ!
五輪・自転車トラック種目での日本勢のメダル獲得といえば84年“ロスの超特急”こと坂本勉(当時・日大)のスプリント「銅」,96年“アトランタの星”こと十文字貴信の1000メートルT.T.「銅」,まだ記憶に新しい04年“アテネの銀脚”こと長塚智広,伏見俊昭,井上昌己によるチームスプリントの「銀」に続く四個目。しかも柔道に次ぎ二種目目となる日本が発祥の五輪正式種目であるケイリンでの初のメダル。今大会直前,ケイリンを五輪種目にするため日本からUCI(国際自転車連盟)に不正な金銭の流れがあったと英国BBCが報じたりもしましたが,発祥国としての面目躍如の快走です。

00年シドニーから正式種目となったケイリンで,日本勢は当時,競輪界最強であった神山雄一郎,太田真一を送り込み初代王者を狙うも惨敗。続くアテネでもすでにチームスプリントでメダルを獲得して達成感に浸っていた伏見は予選敗退。競輪とケイリンはルールも,バンクも,自転車も,レース形態も別物。“お家芸”などとは口が裂けても言えず,日本人が通用する種目ではないということが競輪ファンの常識でした。

それを覆す常識破りの男が出現したのです!
この日も仕事だったおれは準決勝終了直後にある筋から「永井が決勝進出!」という一報を受けたため,「これはすごい!」といつ中継が切り替わっても対応できるように職場のテレビ三台をNHK総合,BS1,民放にそれぞれ合わせてスタンバイしたのだけど待てど暮らせど,話題が自転車に移らない。そうしてスタート予定時刻も過ぎた頃,またもある筋からの「銅メダル」という信じられない速報が届いたのです。狂乱しましたな。しかし民放はともかくNHKはメダル獲得の可能性が浮上したのだから即座に対応せんかいな。前回アテネでは,準決勝を突破した直後に「銀メダル以上確定」との速報を入れて,決勝は生中継だったように記憶しているのですが,今回は悲しいほど無視されました。実際のところ星野JAPANは民放に任せておけばいいし,男子バレーなんてのは生中継する価値ないだろ!競輪には興味がなくてもメダル獲得の瞬間をリアルタイムで見たいっていう人もいるだろうし,それに応えてこそ公共放送といえるんじゃないかね。
こんな調子だからおれがこの銅メダルがどれだけすごいことかっていうのを職場で丹念に説明しても「ケイリンなんだから日本は強いよ。これくらい普通」とか言う奴まで出てくるんだよ。中野浩一の解説付きの映像見てから言えっていうんだよ,まったく。

そして日本では日付も変わった17日0時30分頃,ようやく放送がスタジオに切り替わり,銅メダルを首にぶら下げた永井が生出演。この選手,デビュー時からナショナルチームに入っていたためそれなりにメディアへの露出もあり,当時は明らかに頭の回転も言葉のキャッチボールにも問題を抱え,公家のような顔つきとあまりにスローなしゃべりから「麻呂」とかいうありがたくない別称まで付けられており,生で出して大丈夫かいなと不安に思ったのですが,心配無用でした。気の利いたことは言えないけれど,誠実に一生懸命答えていることがしっかり伝わってきました。何を聞かれても「世界との力の差を感じました」とどこまでも謙虚でした。

NHKも想定外のメダリスト出現にどうしようもなかったらしく,青山祐子アナが「競輪とケイリンはルールも違うので,メダルを獲得したレースを永井選手に解説してもらいましょう」みたいなことを言って決勝の映像を流したのですけど,見事なレースでしたね。「外国人選手はみんな速いので取れなかった」とまずはS取りに失敗したことを明かした永井は最後尾で周回を重ねる。青板過ぎから永井が上昇し,迷わず仕掛ける。赤板で流し気味に先行態勢に入ったところをクリス・ホイ(英国)がカマすと,このダッシュに誰も付いていけず前にいた永井が絶好の番手回り。ホイと永井の脚力が同等近くであれば優勝も狙えた展開だったが,ホイの圧倒的な強さを前に永井は付きバテし,直線でロス・エドガー(英国)に交わされたものの,粘って3着というのが競輪用語乱発のレース回顧。いやー,よくがんばった。積極的に仕掛けたからこそ好展開に繋がりました。しかし,前日のチームスプリントの時にも思ったけど,ホイの強さは異常でしたね。

思えば前回アテネで,唯一世界で勝負できるとされていたチームスプリントで,永井は第三走者を務める予定でした。しかし当時の監督である豪州人のゲーリー・ウエストが「ナガイのハートではオリンピックは戦えない」として五輪直前に代表から外される屈辱を味わっています。そういう背景や,自転車競技の現状を知っている人から見ればこの銅メダルがどれほど輝かしものなのか共感できると思います。

しかしこれで競輪界のロンドンへの方向性は定まりましたね。狙いはもちろん北都留翼,渡邊一成,そして永井で組むチームスプリント。フランス人のフレデリック・マニュエ監督は四年後を見据えているからこそ今回敢えて伏見,長塚を呼んでその経験をチームに植え付けようとしたのでしょうが,結果をさほど求めていなかった北京でとんでもないうれしい“誤算”が生じましたね。

獲れると思っていなかった種目,だけど最も欲しかった種目でのメダル。
「銅メダルで終わらず,ロンドンではもっと上のメダルを目指したいです」という永井の言葉は競輪界の未来を照らします。競輪選手の場合,収入(賞金)補償という側面もあるため関係団体からの報奨金は最低でも5000万円はあると思いますが,1億円あげてもいいと思います。五輪個人種目でのメダル獲得者には12月30日のグランプリへの優先出場権も与えられるはずなので,本業での躍進をも期待します。
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by the_leaping_hare | 2008-08-17 06:50 | Keirin
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