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山猿

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トリプル世界戦・その2 感涙

e0042386_21342174.jpg「WBC世界Sバンタム級暫定王座決定戦」(9月15日・パシフィコ横浜)
同級2位:西岡利晃(帝拳)○判定3−0●同級3位:ナパーポン・ギャットティサックチョークチャイ(タイ)

この試合を観るために横浜まで向かったのだが,待ちに待った瞬間を目にすると,もう言葉にならなかったね。世界王者になるべき選手がようやくなった。32歳。五度目のチャレンジ。本当に長かった。
勝者のコールを受けて涙を流す新王者。勝者をリング上で讃えるかつての宿敵・ウィラポン。太陽のように輝くベルトを巻いて九カ月会っていなかった愛娘を抱く。「パパ,セカイチャンピオン,オメデトウ」。気持ちよく泣かせていただきました。

今回こそ勝つと信じていました。ナパーポンの試合は03年11月22日,ロサンゼルスでオスカル・ラリオス(メキシコ)の保持するWBC世界Sバンタム級に挑んで10回TKO負けした試合くらいしか見たことがありませんが,戦績ほどの怖さはない。ラリオスの猛攻を止められず防戦一方に陥り,タフさを示すことくらしかできなかったあの試合。同じジムで寝食までもを共にするウィラポンに戦い方は近いが,ウィラポンが「西岡対策」として用いた細かなテクニックまで使えるようには見えない。また,ラリオス戦から判断する限り,敵地でタイ国内と同様の強さを発揮できるようにも思えない。西岡はU2の『DIiscotheque』で入場。真っ赤なガウン,シルバーのトランクスで最後の挑戦となるリングに向かった。

初回。勝利への期待が確信に変わる。ここ数戦と同じく頻繁に立ち位置を変えて多彩なパンチを打つ西岡の動きは悪くない。様子見もせず,積極果敢に仕掛けていく姿勢もいい。一方のナパーポンは想像以上にスピードがない。西岡には右へ大きくステップを切り,相手から見て左側の死角に入り左ストレートを打ち込む得意な攻撃パターンがある。これは右構えの選手にとって厄介なのだが,制限する方法として西岡が右に動く瞬間に左フックを引っ掛ける手がある。しかしナパーポンに左フックはなかった。また,ウィラポンが多用したノーモーションの右ストレートをジャブのように突く「サウスポー殺しの右」も使ってこない。ローテンポの左ジャブから右ボディストレートを単調なリズムで繰り返すだけだ。この右ボディは強いのだが,スピードがないためサイドに動ける西岡が捕まることはない。ナパーポンは恐ろしくタフで,表情もまったく変わらないので倒すことは難しいかもしれないが,確実に判定で勝てると思った。

8回を終えて二度目の中間採点が発表される。おれは80−72の西岡のフルマークだったのだが,聞いてビックリ。ジャッジの一人はフルマークでも残る二人が77−75の西岡の2ポイント差。つまり終盤4回のうち最低でも2回を抑えないと西岡の勝ちはない。ここで「根性&玉砕」至上主義の帝拳の悪い伝統が出る。
8回までのスタイルではポイントを取れないと判断したのか,脚を止めた打ち合いに作戦を変更。西岡のサイドへの動きに手を焼いていたナパーポンにとっては願ってもない展開で,ボディ打ちで攻勢に出る。9回,10回は取られたと思った。つまり二人のジャッジではポイントが並んだと思ったのだ。「西岡はなんて運がないんだ」と頭を抱えたところ,幾度も地獄を見ながらも,決して世界を諦めなかった男に,最後の最後で勝負の女神は微笑みました。
10回終了間際,ボディへのダメージもあり,動きの鈍い西岡にナパーポンは左アッパー,右ショート,左フックのコンボを入れる。三発目の左フックは後頭部を擦る程度だったが,水と汗で濡れたキャンバスの影響もあって西岡は脚を滑らせて倒れる。ダウンを取られてもおかしくないタイミングだったが,ケニー・ベイレス主審(米国)は「スリップ」の裁定。これが勝負を分けた。もしダウンと判断されていたらマイナス2ポイント。ナパーポン陣営にも余裕が生まれることとなり,11回に強引に出てバッティングの減点をもらうこともなかったのではなかろうか。そのバッティングで右目上古傷を切った西岡だが,試合終盤での出血は展開には影響がない。むしろドクターチェックの時間だけ休め,しかもWBCルールで出血させたナパーポンには減点1が科せられるとなればラッキーだった。この瞬間,西岡の勝ちが決まったと思った。もう倒すしかなくなったナパーポンは最終回にはプッシングの反則で再び減点1を重ねた。
冷や汗ものの終盤でしたが,終わってみれば公式ジャッジではなぜかラスト4回,西岡はほとんどポイントを失っていませんでした。117−109が二者,119−107が一者の大差判定勝ち。なんだかよくわからない採点でした。
もう,涙,涙,涙の試合後のセレモニー。認定書授与では林有厚コミッショナーが,試合前のコミッショナー宣言に続いてまたも「ナパーポン・ギャットティサックチョークチャイ」のところで噛む。歓喜のリングでは,これも微笑ましい一幕でした。

01年12月の左アキレス腱断裂後,フットワークが使えなくなり,特にウィラポンとの四戦目は悲しいくらいにファイター化してしまった西岡にかつての動きを期待するのは無理だと思ったものでしたが,昨年あたりから復活の兆しは見せていました。
“スピードキング”という愛称を持つ西岡ですが,この選手の持ち味は純粋なスピードではありません。全盛期からしてケタ違いのスピードがあったわけではないし,西岡より速い選手はいくらでもいます。おれもそうですが,この選手に魅せられるのは,まるで日本刀を思わすような一撃必殺の左ストレート。相手のパンチに合わせて放つ戦慄のカウンターパンチ。いずれにせよ踏み込みの鋭さに起因するパンチの切れなのです。
西岡は若い頃よりも今の方が強いとおれは思っていましたが,今回,世界レベルの相手との試合を見て,やはり踏み込みの鋭さ,パンチの切れは落ちていると感じました。経験に裏打ちされたポジショニングの巧みさ,パンチの的確な使い分けでそれをカバーしていました。

正規王者のイスラエル・バスケス(メキシコ)は1位のラファエル・マルケス(メキシコ)との三度に渡る激闘が祟って休養中。帝拳・本田会長があれほど明言しているところからして西岡の正規王者昇格は間違いないでしょう。そう,チャンピンロードは始まったのです。
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by the_leaping_hare | 2008-09-21 01:32 | Box
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