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山猿

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カテゴリ:Movie( 43 )

マイ・ブルーベリー・ナイツ

e0042386_7482351.jpg『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(2007 香港,中国,フランス) 監督:ウォン・カーウァイ 主演:ノラ・ジョーンズ

たとえ台詞が英語であろうと,舞台が米国であろうと,役者が誰であろうと,監督の個性が一貫して表れている点には感心しました。ウォン・カーウァイ初の英語作品。

『恋する惑星』や『デイズ・オブ・ビーイング・ワイルド(欲望の翼)』といった90年代にウォン・カーウァイが得意とした恋愛群像劇。ニューヨーク,メンフィス,ラスベガスと舞台を移すロードムービー仕立ての断片的なエピソードには,つながるテーマもなく,観る者がその雰囲気を感じることで,辛うじて一本の映画として成立する。泣けるラブストーリーではないが,共感できる瞬間はある。95分という短尺ながら,どうでもいいシーンも少なくない。それでいてノラ・ジョーンズとジュード・ロウの美しいキス・シーンであったりと,印象的なシーンが散発する。これにスタイリッシュな映像と抜群の選曲センスが織り交ぜられた瞬間芸術。それまで存在しなかった毛色の映画を90年代の香港で生み出したウォン・カーウァイが現代のアメリカでも同様のことを貫いたことにこの映画の意義がある。
では,ウォン・カーウァイが香港で映画を撮る必要がないのかといえば,そうは思わない。今作を観れば,香港を舞台に,中華圏の役者を使い,広東語を話してこそウォン・カーウァイの映画は最も活きると感じることができる。
撮影は盟友クリストファー・ドイルではなく,『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』などジャン・ピエール・ジュネの作品でお馴染みのダリウス・コンジ。ストーリーに無関係なカットやスローモーションを多用するウォン・カーウァイ映画の特色を踏襲してはいるが,少々くどすぎる。
キャストでは,メンフィスのシーンで登場するデヴィッド・ストラザーンの演技が絶品。映画初出演のノラ・ジョーンズは錚々たる面々に囲まれても存在感はあったが,美人とはいえないよな。ギャンブラー役のナタリー・ポートマンも『レオン』をピークに,年々魅力を感じられなくなっている(>ロリ?)。それに比べて,レイチェル・ワイズ様の色気といったら…いやいや,もうたまりませんな…
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by the_leaping_hare | 2008-04-28 10:41 | Movie

1972.2.28

e0042386_184317.jpg『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』 (2007 日本)製作・監督・企画・脚本:若松孝二,音楽:ジム・オルーク

1960年の安保闘争から1972年のあさま山荘に至るまでの連合赤軍事件を真っ正面から事実として描いたこの映画を前にすれば,完成度などどうでもいい。日本人として観ておかなければならない映画。上映時間190分。朝10時20分から一回のみの上映であるテアトル梅田は平日であるにもかかわらず立ち見まで出ていた。客層は全共闘世代多し。長谷川和彦が20年かけても撮れなかった連合赤軍を,『光の雨』,『鬼畜大宴会』,『突入せよ!あさま山荘事件』では歪んだ角度からでしか描けなかった連合赤軍を,集大成という決意で若松孝二が小細工なしに撮り切った。

制作費は二億円強。終盤の「あさま山荘」の場面では予算不足から1600人動員された警官の姿はなく,あの鉄球も出てこない。若松監督が自宅を抵当に入れ,別荘をぶっ壊しながらも甦らせたあさま山荘だ。すべての役が実名であり,連合赤軍メンバーは坂口弘役のARATA,遠山美枝子役の坂井真紀以外はほぼ無名の役者。出演者にはマネジャーの同伴を許さず,全員合宿生活での参加を強制している。中でも異彩を放ったのが永田洋子役の並木愛枝という役者。『光の雨』での裕木奈江の不気味さとはまた異なるインパクト。とてつもなくブスで性格の悪い女にリアリティを持たせた。

そして忘れてはいけないのが,音楽をジム・オルークが担当しているということ。おれはジム・オルークが大好きなのだけど,美しいですね。中盤以降のギターサウンド,クライマックスでのBill Fayのカバー「Pictures of Adolf Again」に,少年の悲痛な叫びが重なる。若松監督作品の熱狂的なファンであったジム・オルークが監督に音楽を担当させてくれと直訴したことから実現した奇跡の組み合わせだ。ジム・オルークなど知らなかった監督が「おれと話がしたかったら日本語を話せるようになってから来い」と門前払いにしたこと,東京に移住したジムが一年後に本当に日本語を話せるようになっていたこと,作りあげた音楽に対しても「この馬鹿が」と何十回も監督がダメ出ししたことなど凄まじいエピソードが残っている。何故,サントラが発売されていないのだ。

上映後のテアトル梅田ではグッズ売場に長蛇の列ができていました。ISBNが付き,書店でも販売している1400円+税のパンフレットが秀逸。朝日新聞社の発行ということだけが気にくわないけれども,たいへん優れた資料的価値も持つものに仕上がっています。

おれは1972年には生まれてもおらず,現在に至るまで一切の政治運動に関わったことはない。“Revolution”という言葉に何の憧れもなければ,革命家へのシンパシーも感じない。それでもこの時代を知っておく必要があると強く感じた。志を持って結成された組織が内部で崩壊する過程…本気で時代を変えようとした若者たちの敗北。国家権力側からの一方的な史実に従ったわけでもなく,連合赤軍を賛美するわけでもなく,実録として客観的に記録した壮大な鎮魂歌が,35年の時間を経てようやく紡がれた。
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by the_leaping_hare | 2008-04-07 12:56 | Movie

No Country for Old Men

e0042386_3112538.jpg『ノーカントリー』(2007米国)監督:ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン

なるほど,コーエン兄弟がアカデミー賞を受賞するというのはこういうことか。緊張感溢れるサスペンスの中に気の利いた台詞やユーモアがふんだんに鏤められたお得意のスタイル。それこそコーエン兄弟がデビュー以来,ずっと描いてきた映画と何ら変わりないのだが,今作はアメリカという国の病根をテーマにしている。物語の始まりと終わりに用意されたトミー・リー・ジョーンズの独白。時代に取り残された者の諦念がそれを象徴する。

1980年代テキサスを舞台にした不条理劇。ベトナム帰りの元溶接工(ジョシュ・ブローリン)は狩りの最中に,ギャングの麻薬取引が決裂した場に偶然遭遇し,そこにあった200万ドルを持ち逃げする。それを追うやたらと行動規範にこだわる雇われ殺し屋(ハビエル・バルデム),そしてこの事件を捜査する老保安官(トミー・リー・ジョーンズ)の三人の物語。追う者と追われる者。短絡的に求める快楽と,唐突に訪れる死。麻薬がもたらす惨劇,目の前に現れた大金を何の疑いもなく持ち逃げする神経,あまりに簡単に殺人ができてしまう社会,どれだけ注意していてもコインの裏表どちらが出るかで決まってしまうという偶然性に支配された人生…この映画で展開される不条理は,“現代”のアメリカそのものだ。

『夜になるまえに』で主演したハビエル・バルデムの怪演(アカデミー賞助演男優賞受賞)に食われてしまうが,役者は総じて好演。度肝を抜く殺戮シーンもあれば,描写は一切ないままに殺人を想起させるような演出も冴えている。原作はコーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」。邦題の『ノーカントリー』じゃなんのこっちゃさっぱりわからんが,原題がこの映画が提示していることすべてを表している。
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by the_leaping_hare | 2008-03-26 04:01 | Movie

潜水服は蝶の夢を見る

e0042386_22545729.jpg『潜水服は蝶の夢を見る』(2007 フランス/米国)監督:ジュリアン・シュナーベル

ジャン・ドミニク・ボビー,パリ在住の42歳。職業は雑誌『ELLE』の編集長。金も女も社会的地位もあるが(子供はいても)家庭は持たず,人生を謳歌していたまさにその時,前触れもなく脳卒中を発症。一命は取り留めたものの,「ロックト・イン・シンドローム」となってしまう。感覚意識と聴覚は残ったが,全身が麻痺してしまった状態だ。人生のピークから絶望のドン底に落ちた男は,唯一自由が効いた左眼周辺の筋肉を使い,瞬きを伝達手段に,自伝を書き上げる。この実話に基づく一種風変わりな映画の監督はジュリアン・シュナーベル。前作で,キューバ出身の作家レイナルド・アレナスが死の直前に記した伝記をもとに『夜になるまえに』を撮った米国人だ。

そんじょそこらにあるようなドラマでもなければ,安っぽい感動作でもない。絶望が希望につながる過程がものすごく丁寧に描かれています。意識を取り戻した瞬間から映画は始まるが,自伝を完成させるという奇跡の瞬間,そして死へと進む現在進行形の時間軸とは別に,主人公の記憶を過去へと遡る時間軸も存在する。観客は,主人公の左眼,頭の中に同化し,彼の記憶と想像を駆けめぐる。想像力を欠如した人間が観ても感動することは不可能。早くも本年度ベスト作品か。

主人公の左眼から見える世界,そして想像世界を視覚化したヤヌス・カミンスキーの映像がすばらしい。この撮影監督もそうだが,主人公を演じたマチュー・アルマリック,主人公の意思伝達手段を考案する美人女医役のマリ・ジョゼ・クローズも『ミュンヘン』に出演していたスピルバーグ組。撮影も主に米国で行われている。

ジュリアン・シュナーベルは,『バスキア』で“黒人”の画家,『夜になるまえに』では“ゲイで亡命者”の作家と実在した“異端者”をテーマに映画を撮ってきた。今回はある意味,異端の極致ともいえる「障害者」を真摯に見つめる。押しつけがましい感動はそこにない。ちょいわるオヤジは全身麻痺を負ってもエロ親父のままだという遊び心も忘れず,究極の人生讃歌がそこにある。
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by the_leaping_hare | 2008-03-12 22:39 | Movie

ラスト、コーション

e0042386_31720100.jpg『ラスト、コーション』(2007米国,中国,台湾,香港)2007ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞

スパイとその潜入対象者が警戒と裏切りの日々を共有する中で,特別な感情を抱いてゆくというスパイものとしては王道ストーリーなのですが,完成度が非常に高い。前半と後半で物語はふたつ。前半は盧溝橋事件後の1938年の香港。後半は1942年,日本軍占領下の上海。些細なことから抗日運動に身を投じ,女スパイになった広州出身の田舎娘が自らの幸せを捨て,親日派特殊機関幹部を暗殺するために人生を捧げる物語。女スパイにこの作品が処女作となるタン・ウェイ(湯唯)。敵対する親日派幹部にトニー・レオン(梁朝偉)。
この作品がセンセーショナルに取り上げられるのは,なんちゅう体位でやってんのかいというほどの「脱ぎまくり,やりまくり」で腋毛とぼかしありの後半の性描写なのだが,それ以上に印象に残ったのが前半部でのタン・ウェイの処女喪失シーン。親日派の若夫人と身分を偽り,潜入対象に取り入ろうとするのだが,さすがに処女ではバレるだろうと,来るべき日を前に,好きでもない仲間の男に練習させてもらいながら女としての本能に目覚めていく様が実に見事に描かれている。タン・ウェイは,単なる美人に留まらず狂気を持ちあわせている。一歩間違えればどうしようもなく汚い女に見えてしまうところを最後まで美しくあったのは,監督のアン・リーが極めてまともな人間だからであろう。
総制作費37億円をかけてマレーシアにつくった当時の上海を再現したセットも見事。あと,ジョアン・チェン(『シュウシュウの季節』の監督)の姿を久々に見た。
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by the_leaping_hare | 2008-03-01 12:30 | Movie

earth

e0042386_14344946.jpg『アース』日本語吹替版(2007イギリス,ドイツ)

主役は地球。『ディープ・ブルー』やNHKで放送された『プラネットアース』のスタッフが5年の歳月をかけて撮りあげた渾身のノンフィクション。26カ国でロケが行われている。最初に示されるホッキョクグマの親子がたいへん魅力的で,その世界に引き込まれると,その後も超望遠レンズによるトナカイの大移動,1秒間に1000コマの撮影が可能な超ハイスピードカメラによるオオカミの狩りの決定的瞬間など眺めているだけで十分の映像のオンパレード。ホッキョクグマ,アフリカ象,ザトウクジラなど希少種が効果的に使われており,環境問題への提示もなされている。
日本語吹替版のナレーターは渡辺謙。ベルリン・フィル管弦楽団の静かな調べが感動を呼ぶ。ぜひ大スクリーンで見ておきたい。小人料金を500円に設定しているのも評価できる。
なお,この映画の完成試写会には亀田興毅が出席しており「ホッキョクグマはごっつ根性がある。今年のテーマはホッキョクグマや」と絶賛していたことを付け加えておきます。
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by the_leaping_hare | 2008-02-26 15:10 | Movie

子猫の涙

e0042386_21563592.jpg『子猫の涙』(2007日本)

メキシコ五輪のボクシング・バンタム級銅メダリストの森岡栄治の人生を,名画座・中野光座を舞台にした『クラヤミノレクイエム』で映画監督デビューした甥の森岡利行が描いた作品。

過去,日本が五輪ボクシングで獲得したメダルは3個。田辺清(ローマ・銅・フライ級),桜井孝雄(東京・金・バンタム級),そして森岡。日本アマチュアボクシング界の現状を考えれば,この先,メダルを獲得できるとは到底思えないため,森岡のことは“最後のメダリスト”と呼んで構わないだろう。
メダリストは,3人とも後にプロ転向している。田辺は67年2月20日に世界フライ級王者オラシオ・アカバロ(アルゼンチン)にノンタイトル戦で6回TKO勝ちし,タイトルを賭けて再戦することが決まった直後,網膜剥離が発覚して引退。桜井は68年7月2日に日本武道館で世界バンタム級王者ライオネル・ローズ(豪州)に挑み,2回にダウンを奪うもその後の安全運転が災いして15回判定負け。世界には一歩届かなかったが,両者がプロでも一線級で活躍したのに対し,大成しなかったのが森岡だ。また,唯一の故人でもある。
映画では森岡栄治ってこんな無茶苦茶な人だったのというほど,近大在学中に獲得したメダルは過去の栄光として,その後の転落人生に焦点を当ててコミカルに描く。物語の語り部は,父の栄光を記録でしか知らない娘(幼少時:藤本七海,成人時:宝生舞)が務める。浮気をどうしてもやめられないためパイプカットをしたことなど監督が実の甥だから済まされるものの,赤の他人が撮っていたら名誉毀損で訴えられてもおかしくないエピソードが平然と出てくるが,結局は愛すべきダメ親父ものだ。
主人公に武田真治,主人公の後妻となる気の強いホステスを広末涼子。全編,大阪弁。赤井英和が刑事役で出演するなど関西のボクシングファンはとりあえずチェックしておきたい。森岡栄治氏が設立し,登場人物の一人にもなっている長男の森岡和則会長が継承した兵庫県川西市の「森岡ボクシングジム」でもロケが行われている。
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by the_leaping_hare | 2008-02-20 23:32 | Movie

アメリカン・ギャングスター

e0042386_3324658.jpg『アメリカン・ギャングスター』(2007米国)監督:リドリー・スコット,出演:デンゼル・ワシントン,ラッセル・クロウ

おお,これは骨太だ。gangsterというタイトルやギャングvsポリスという構図から,よくある二大スターの競演ものと即断するなかれ。ベトナム戦争,人種差別,ヘロイン,ピストル,ファミリー,汚職警官,メイド・イン・ジャパン,公民権運動,ブラック・パワー,キング牧師,モハメド・アリ,リチャード・ニクソン…これは1960年代末から70代にかけてのニューヨーク・ハーレムを舞台に,リドリー・スコットがアメリカという国家を描いた大作だ。過ぎ去った時代を賛美するでも,ただ懐かしがるでもなく,現在につながるテーマに真摯に目を向けた作品。157分という上映時間をまったく退屈させない。
しがない運転手からハーレムのヘロイン王に成り上がった黒人フランク・ルーカスの一代記でありながら,リドリー・スコットがひたすら見つめたのはアメリカの歴史だ。つまりは在日朝鮮人がヤクザになってのし上がるような映画を期待してはいけない。陳腐な抗争劇や裏切りといったものは極力排除され,物語は進む。それでもお約束の銃撃戦は挿入されており,迫力は十分ある。
ストーリーのターニング・ポイントとなるのは,71年3月8日,マジソン・スクエア・ガーデンで行われた統一世界ヘビー級タイトルマッチ,ジョー・フレージャー対モハメド・アリ戦。時代の変移を象徴する出来事が実にうまく描かれている印象的なシーンがある。

デンゼル・ワシントンが「汚れた手でつかんだ,美しき人生」を,ラッセル・クロウが「人生を賭けてつかんだ,美しき正義」を余計な説明なしの演技で示す。観て損はない。デンゼル・ワシントンの衣装もかっこいい。
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by the_leaping_hare | 2008-02-19 04:50 | Movie

シルク

e0042386_236992.jpg『シルク』(2007 カナダ/フランス/イタリア/イギリス/日本)

つまらん。何をいいたいのかさっぱりわからん映画。
メインとなるのは19世紀のフランスの田舎だが,登場人物は英語を話す。主人公(マイケル・ピット)は幻の蚕の卵を求めて,鎖国下の日本は,庄内藩酒田に命懸けの密航を敢行。最上川,信濃の山を経由してようやく辿り着いた雪深い寒村を統治する原十兵衛(役所広司)がこれまた英語ペラペラ。いったいどこで学んだのでしょうか。さらには江戸末期の日本の描写が『ラスト サムライ』に匹敵し,つっこみどころは満載です。変態外人ならいざ知らず,少なくとも日本人が観て共感できる映画ではありません。
おれが途中退室を踏みとどまったのは,坂本教授の音楽でもじっくり味わおうではないかという理由からなのですが,心地よいスコアは眠気を誘う。しかしあまり寝過ぎると,キーラ・ナイトレイの脱ぎまで見逃すことになりかねないので注意されたし<結局,それが目当てかい!
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by the_leaping_hare | 2008-02-18 03:50 | Movie

いらっしゃいませ。そして,永遠にさようなら。

e0042386_1471139.jpg『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007 米国)
舞台は19世紀のロンドン。フリート街で,美しい妻と娘とともに,平凡で幸せな日々を送っていた理髪師ベンジャミン・バーカーは,悪徳判事・タービンの奸計により,無実の罪を着せられ,家族と離ればなれに。15年後,脱獄したバーカーはスウィーニー・トッドと名前を変え,フリート街に舞い戻る。「復讐」の思いをその手に握りしめた剃刀に込めて…

スティーブン・ソンドハイムによるブロードウェイ・ミュージカル『スウィーニー・トッド』をスクリーン化。97年にジョン・シュレシンジャーによっても映画化されていますが,ティム・バートンとジョニー・デップのコンビならではの禍々しい世界観はやはり別ものです。それは今作がミュージカル映画であるからということとは関係ありません。愛がもたらす奇跡に期待した次の瞬間には銀の剃刀で一刀両断されてしまいます。
物語の奇特性よりも,復讐や偏愛といったものに取り憑かれた人間が大切な何かを失っていく様に焦点を注ぎ,実に見事に描いています。

ストーリーの最も衝撃的な部分,つまりは『八仙飯店之人肉饅頭』であることは,オープニングで示されております。ひとつ忠告しておくなら,デートで観るのは避けた方がいい。単なるゴシック・ファンタジーじゃすまないのよ,この映画は。ジョニー・デップはアンソニー・ウォンと違って気品があるけど,それでも見終わった後は飯が食えなくなる。

彩度を落とした現像とCGによる映像がすばらしい。薄暗く,胡散臭い街並みには,奇怪な事件が当然のように起こるという空気を漂わせています。総じて破滅を迎える中で,その行く末を描かれなかった登場人物がいることに,この作品のやさしさと救いを感じました。
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by the_leaping_hare | 2008-02-14 05:06 | Movie